なぜインターネット広告全盛時代にテレビCMを打つのか?オンライン・オフライン広告の特徴と相乗効果
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講師
「チラシ印刷ならラクスル」
私たちラクスルはこのシンプルなメッセージを、テレビCMを通じて届けることで大きく売り上げを伸ばしました。
「若者のテレビ離れ」という言葉を使うまでもなく、テレビの視聴率、影響力の低下は、誰もが普通に生活していても肌で感じるレベルで進行中だと思います。ではラクスルは、なぜオフライン広告の代表格であるテレビCMで業績を伸ばすことができたのでしょう?
『オンオフ統合マーケティング』について解説するこの連載。今回は、オンライン広告全盛の中であえてオフライン広告で業績を伸ばした弊社ラクスルを例に、オンライン時代に新たな可能性を携えて再注目されるオフライン広告についてお話ししようと思います。
オンライン広告だけでいい? デジタル時代に効果的な広告とは
マーケティング界隈ではいまさら感と感じる方も多いかもしれませんが、テレビ視聴時間が減少し、インターネットの利用時間が増加している、特に10代、20代でこの傾向が顕著ということははっきりとデータにも表れている客観的事実です。
総務省のデータによると、令和4年(2022年)には、全世代の平日のインターネット平均利用時間が初めてテレビを超え、世代を問わないデジタルシフト、オンライン化が決定的になっています。
年代別データなどの詳細はこちら「令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」にあるので、ぜひ目を通していただきたいのですが、利用時間の推移とともに、広告施策もオフラインからオンラインが主流になっています。
資料①「テレビ」、「インターネット」、「新聞」及び「ラジオ」の利用時間と行為者率
ではマーケティングでは、オンライン広告だけを考えればいいのか?という疑問がわいてきます。
実は、それがそうとも言い切れないのです。
旧時代の遺物ではない。依然として有効なオフライン広告の特徴
時代の趨勢だけを見ていると、たしかに今この時代にテレビCMを打つことは、一見すると時流に逆らった施策に見えます。
ここでオフライン広告の代表格であるテレビCMの特徴を改めて見てみましょう。
①網羅性
かつては世帯99%の普及率を誇り、現在でも90%台後半を維持するテレビは、依然として多くの人にとってもっともアクセスしやすいメディアであることに変わりません。新聞、ラジオなども同様にアクセスのハードルが低いことで、情報を伝達する際の網羅性が高いことが挙げられます。デジタル広告ではリーチできない層が一定程度存在することも見逃せない点です。
②受動性
インターネット広告などが個人の興味や関心に合わせてカスタマイズされ、ピンポイントで表示されるのに対し、テレビCMは受動的で間口が幅広い点が特徴として挙げられます。つまり顕在化されていないニーズに訴えかける広告出稿が可能です。
③視聴者からの信頼、安心感
長い間、メディアの主役として君臨してきたテレビには、それ自体にブランド力があるともいえます。オフラインメディアの広告には、一定の考査基準があり、法の順守や正確性、倫理が担保されている点も、視聴者のテレビCMに対する信頼、安心感につながっています。
これらの特徴は、そのままオフラインメディアに広告を出稿するメリットにもつながります。すでに需要のある層が明確で、メインターゲットが10代~20代という商材ならば、オンライン広告が適当かもしれませんが、世代問わず幅広いニーズを喚起したい場合、反対に、訴求したい特定の層がオンラインメディアに不慣れな場合などは、オフラインメディアを有効活用するのが理にかなっています。
オフライン広告の代表格・テレビCMを変えた運用型広告
一歩進んで、2020年代後半の現在、テレビCMを出稿する意味、メリットについてお話ししていきましょう。
かつてのテレビCMにはROI、KPIの到達など、効果測定する場合の指標が明確ではないという致命的なデメリットがありました。
知名度向上、ブランディング施策などさまざまな目的があったとしても、マーケティングの最終的な使命は、「最終的にどれくらい売り上げに還元できるか」です。
即効性だけを見る必要はありませんが、投資に見合った成果が出せなければ、そのマーケティング施策は残念ながら成功とはいえません。
広告投資における費用対効果の説明責任を果たすために生まれたのが、オンオフ統合マーケティングの要でもある「運用型テレビCM」です。
ターゲット認知を60%向上させ、売上高も爆上げさせたオンオフ統合スキーム
インターネットの普及は、オフラインメディアの衰退の文脈で語られることが多いのが現状ですが、実はオンライン広告で培ってきたノウハウ、デジタルで明快に結果が出るCPM/CPA/CPIといった指標の分析とその蓄積がテレビCMに新たな可能性を生んでいるのです。
運用型テレビCMでは、オンライン広告と同じようにリアルタイムで広告効果を可視化できるため、リソースを投下しつつ、高速でPDCAを回すスキームが構築できます。
実際に、ラクスルでは2014年からの4年間で、約50億円を投下し、ターゲット認知度60%向上、「テレビCM以前」の2013年から2019年で売上高は24倍と驚くべき成果を得たのです。
オンラインとオンラインを自由に行き来する視聴者
オンラインとオフラインの統合は、視聴者側でも進んでいます。
先ほどの総務省調査報告では、テレビとインターネットの並行利用、いわゆる「ながら見」についてのデータも発表しています。
テレビのリアルタイム視聴率が高い平日の20時台、休日の19時、20時台に並行利用が増える傾向が顕著で、年代を問わずテレビとインターネットの併用が当たり前になっていることがわかります。
※上記の表中、「並行」「テレビリアルタイム」は各年代全体に占める割合、「並行/テレビ」は「テレビ(リアルタイム)視聴」に並行利用が占める割合
「令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」より
テレビでオンエアされた番組、出演者、キーワードがX(旧Twitter)のトレンドワードの上位を占めることからも、視聴者がテレビで得た情報をもとにオンラインでの何らかの行動に移行していることがわかります。
ユーザーがオンとオフを自由に行き来しているわけですから、オンラインとオフラインをわけて考えるより、シームレスなマーケットとしてとらえて分析をすべきでしょう。
「チラシ印刷ならラクスル」に詰め込まれたマーケティングのエッセンス
では、テレビの視聴者をどうやってオフラインからオンラインへと行動を促していくのか?
ここで再びラクスルがテレビCMで打ち出したメッセージを振り返ってみましょう。
「チラシ印刷ならラクスル」
シンプルなメッセージですが、実はこのフレーズにオンライン広告とオフライン広告を統合するエッセンスが詰まっています。
旧来のテレビCMでは、会社名、ブランド名を連呼する手法もよく見られました。弊社も「ラクスル」という名前を認知してもらうことにプライオリティは置いていましたが、社名、サービス名の認知だけを高めても行動には結びつきません。
重要なのは、視聴者に興味を持ってもらうこと。そのためには、「チラシ印刷」というワードとセットで「ラクスル」を広く知ってもらう必要がありました。
顕在的な需要を効果的に想起させる「指名検索」
オンオフ統合マーケティングの最重要施策といっても過言ではなく、ラクスルCMOにして、ノバセル代表の田部 正樹の著書のタイトルにもなっている「指名検索」がまさにこの言葉の組み合わせで加速します。
潜在顧客である視聴者にどんなタイミングで自社のサービスや製品を思い出してもらえるか? 「ラクスル」だけが頭に残ってもそれこそ知名度向上にしかなりませんが、「チラシ印刷ならラクスル」なら、印刷需要が発生した際に思い出してもらえます。同時にテレビCMでは、「1枚1.1円」と安さを強調しました。例えばチラシを印刷する際のコスト感がある人なら、テレビCM一つでサービスの説明だけでなく、競合に対する優位性のアピールまでできてしまうのです。
結果として、インターネット検索で「印刷」「ラクスル」や「ネット印刷」「ラクスル」という組み合わせではなく、「ラクスル」単体での指名検索が急増することになります。
オンオフ統合の先にある新しいオフライン広告の可能性
テレビを見ながらスマホで気になることを調べたり、画面や紙媒体に表示されたQRコードでオフラインメディアからオンラインメディアに移動したりする行動は、すでに世代を問わず常識になっています。
以前は、テレビでは知名度、ブランディングを高め、行動につなげるのはオンラインなどの別の施策で……という目に見えない壁がありましたが、視聴者の行動変容と運用型テレビCMなどの登場により、オンライン広告にはない、オフライン広告独自の特徴やメリットが生かせる時代になりました。
オンオフ統合マーケティングは、オフライン広告をデジタル時代にフィットした形に生まれ変わらせるマーケティング手法でもあるのです。
注:例年の調査は11月~12月頃に実施しているが、平成30年度の調査は2月~3月、前々回(令和元年度)及び前回(令和2年度)の調査は1月に実施している。なお、以下のグラフや表においては、過去の調査結果の記載との並びを考慮して、調査の単位を年度とし、「H30」、「R01」、「R02」と表記する。
「令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」より