女性視聴者の心を動かしたのは「他とは訴求の異なるクリエイティブ」
目次
講師
ノバセルにてマーケティングの効果として重要指標としている「指名検索」。
CM放映の前後数分間に増えた指名検索数をCMの放映量で割ったスコアを「指名検索スコア」と設定し、理論上はこのスコアが⾼いほどCMによってブランド名がより効果的に検索されたと計測しています。あらゆるテレビCMの指名検索スコアが可視化できる「ノバセルトレンド」にて、2023年10⽉の指名検索スコア順テレビランキングをご紹介します。
2023年11月 指名検索スコアの高いテレビCMランキング
2023年11月1日~11月30日の期間に放送されたテレビCMのうち、高い指名検索スコアを獲得したCM上位5件のランキングと、CM内容をご紹介します。
1位:BYD Auto Japan「BYD DOLPHIN」
(出所 BYD JAPAN「BYD DOLPHIN | BYDコンパクトEVの決定版 篇 テレビCM」2023/10/20 https://youtu.be/Ez9n3De-EFs)
電気自動車のグローバルリーダー「BYD」が日本で発売する第二弾モデルのコンパクト電気自動車「BYD DOLPHIN」のテレビCM。小回りしやすいコンパクトさながら、車内の広さ、幼児置き去り検知システム、充電走行距離などの特徴を分かりやすく伝えたCMです。
2位:物語コーポレーション「ゆず庵」
中とろから始まる様々なお寿司、熟成牛・三元豚のしゃぶしゃぶが食べ放題100分2,980円~を案内するCM。厳選された食材がアップで映され、食欲を誘うCMに多くの視聴者がくぎ付けになったのではないでしょうか。
3位:セブン-イレブン・ジャパン「セブン-イレブン」
ショートケーキなどの定番クリスマスケーキとは一線を画した、有名店監修のモンブランやチョコレートケーキなどお洒落でひと味違ったクリスマスケーキを数量限定予約販売していることを伝えたCM。有名店や食材へのこだわり、デザイン性など、いつもと違うクリスマスを演出できるケーキのリサーチとして検索が増えたのではないでしょうか。
4位:ライテック「NICOLESS」
タバコの代わりとなるニコチンゼロのリフレッシュアイテム「NICOLESS」のCM。スーツの男性が整列する中で、一人の女性が「NICOLESS」を手にアップで映るCM。耳にすることも多い壮大な楽曲である、リヒャルト・シュトラウス作曲「ツァラトゥストラはかく語りき」に合わせて「なにこれニコレス」と歌う訴求は、ながら視聴をしている中でテレビに目を向けた方が多くなったのではないでしょうか。
5位:アマゾンジャパン「Amazon」
12月1日23:59まで開催していた「ブラックフライデー」を案内するCM。AmazonのCMでお馴染みのベルトコンベアに商品が流れ、ダンボールに梱包されていくアニメーションのクリエイティブ。BGMも含め一貫したクリエイティブをキャンペーン期間中に放映することで、視聴者が「Amazonが何かキャンペーンをしているのでは?」と気づくきっかけを与えている印象です。
今月のランキングでは、数あるブランドの新車種CMが放映されている中で、なぜBYD Auto Japan「BYD DOLPHIN」が1位を獲れたのか分析します。
「BYD DOLPHIN」の分析
まずは月別の指名検索数をみてみましょう。BYDに関連するキーワードは、2023年の8-9月ごろから伸びていることがわかります。2023年9月は「BYD DOLPHIN」が販売開始された月です。(参照:https://byd.co.jp/news/2023_0920_146.htmll)
テレビCMを放映開始したのは10月ですがその前から、市場の注目を集めているのが検索からもみてとれます。そして、テレビCMを放映した10月にさらに検索数の伸びが確認できました。
「BYD DOLPHIN」がどのようなユーザーから選ばれるブランドなのか、検索行動から読み解いてみます。
「BYD DOLPHIN」を検索したユーザーが以前にどのような検索をしていたのか時系列で確認しました。
・「BYD DOLPHIN」を検索した15日程前に「BYD 電気自動車」
・1か月程前に「日産サクラ」「ev 自動車」
・2か月程前に「テスラ」などのキーワードを検索しているのがわかります。
「EV自動車」を検討している層が、テスラ・日産サクラなどを経て、BYDにたどり着いていることがわかりますね。
では、数ある電気自動車のCMのなかで、なぜ「BYD DOLPHIN」のCMがこれほどまで高い効果を出しているのか。その他の電気自動車のCMと比較しながら考察してみます。今回は、「日産サクラ」、「日産リーフ」、「Audi Q4 e-tron」の3ブランドをピックアップしました。
それぞれどのようなコミュニケーションを展開しているのでしょうか。各ブランドの訴求を見ていきましょう。
1.BYD DOLPHIN(https://www.youtube.com/watch?v=Ez9n3De-EFs)
・小回りすいすい
・室内ひろびろ
・もしもに備える幼児置き去り検知システム
・一充電走行距離476km
2.日産サクラ(https://www.youtube.com/watch?v=FOUg01NKiO8)
・自宅で車が充電できる
3.日産リーフ(https://www.youtube.com/watch?v=sCAXVe0byMw)
・電気自動車でも加速力、パワーがある
4.Audi Q4 e-tron(https://www.youtube.com/watch?v=xoolTLU1ExU)
・多彩なカスタマイズ
・先進のAR技術
・一充電走行距離最長594km
・全国に広がる独自の急速充電ネットワーク
※2022/11/1-2023/11/30に関東で放映された各社のCMなかで、最も放映が多かったクリエイティブで比較
日産サクラと日産リーフは電気自動車ならではの要素を1点推し(自宅で充電ができる、加速力・パワーがある)を訴求しているのがわかります。Audi Q4 e-tronについてもAR技術や走行距離、充電ネットワークなど、電気自動車ならではの要素の訴求です。
BYD DOLPHINのみ、電気自動車の特徴ではなく、通常の車で訴求しているような情報を打ち出し、電気自動車への関心が高くない層にも向けた興味を喚起していたのではないかと考えられます。
テレビCM放映前8月と放映終了後11月の「BYD DOLPHIN」の検索をユーザーの性別別に分解すると下記の通りです。男性の検索数が約3.5倍伸びているのに対して、女性の検索数は約4.4倍伸びています。小回りすいすい・室内ひろびろ・もしもに備える幼児置き去り検知システムなどの訴求が、女性のニーズをより捉えていた可能性も考えられます。
性別による検索ボリューム比較
年代による検索ボリューム比較
8月と11月の検索数を比較すると、全年代合算での検索数は、約3.5倍伸びています。なかでも高い伸び率を記録しているのは20代の約4.3倍、50代の約4.8倍です。
元々のボリュームゾーンであった、40代~60代の検索が伸びることは、自然であるものの20代が伸びていることは上記のプロモーションと関係があると読み取れます。
「BYD DOLPHIN」は、テレビCM放映前から注目を浴びていた中で、テレビCM放映時期には既存のターゲット層の検索に寄与したことはもちろん、訴求内容を電気自動車の特徴や技術面に振り切らなかったことで、電気自動車に関心のない層の検索も獲得できたことが、高スコアにつながったのではと考えます。
総括
2023年11月放映のテレビCMは、「BYD DOLPHIN」を取り上げて解説しました。テレビを”ながら視聴”するユーザーが増えている近年では、CM放映前後に商品やサービスが検索された数・割合を知ることで、世の中のトレンドや関心度が伺えます。