広告投資を最適化する「運用型成果連動CM」で、テレビCMのDX実現を目指す
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※【日本経済新聞電子版】広告投資を最適化する「運用型成果連動CM」で、テレビCMのDX実現を目指すより転載
長引くコロナ禍の影響により企業のDXが加速し、従来以上に投資対効果の可視化と高速PDCAが求められていく中、テレビCMへの投資対効果をどのように検証すればよいのか悩む企業は少なくない。そんな課題を解決し、テレビCMの広告効果を測定しながら広告効果を最大化できる運用型テレビCMサービスとして登場したのが、ラクスルの「ノバセル」だ。12月にはマス・デジタルの双方に強みを持つ総合広告会社ADKマーケティング・ソリューションズ(ADKMS)と業務提携に向けて基本合意。テレビとWebの垣根を超えた「運用型成果連動CM」の提供により、テレビCMのデジタルトランスフォーメーション(DX)化を加速させる両社の協業が始まろうとしている。この業務提携は広告出稿企業にどのような効果をもたらすのか。ラクスル取締役CMO/ノバセル事業本部長の田部正樹氏と、ADKMS取締役の亀井典明氏が意見を交わした。
「テレビCMの広告効果が見えない」
という課題解決に挑む
―――コロナ禍がビジネスに大きな影響を及ぼすとともに、若い世代のテレビ離れも指摘されています。テレビCMを出稿する企業や広告会社はいま、どのような課題に直面しているのでしょうか。
田部氏: テレビCMを出稿する企業からは「広告の効果が得られているのか分からない」という懸念の声がよく聞かれます。また、日本の広告市場では昨年ついにネット広告の総額がテレビCMを超え、「テレビCMをこのまま続けてもよいのだろうか」と迷う企業も増えています。テレビCMの出稿にはまとまった経費もかかるので、投資に見合った売り上げやビジネスインパクトが把握できない状況に悩むのもうなずけます。
とはいえ、テレビCMの広告効果がないというわけではありません。10代・20代はテレビよりもネットのほうが広告効果を期待できるでしょうが、50代・60代はいまもテレビが主たる情報入手源です。テレビCMは効果が見えにくいからネット広告へ切り替えるといった「どちらか一方」ではなく、ネットとテレビの「両方」をうまく活用しながら効果のある広告出稿をすることが重要なのですが、これができていないところが企業の課題だと考えています。
亀井氏:確かにテレビとネットのベストミックスは、最も重要なテーマです。コロナ禍によって若い世代のテレビ視聴が増加したことで、その重要性が増しています。テレビの魅力は到達の広さです。一方ネットの魅力は、パーソナルなマーケティングができることです。両者をつなぐ有効な手立ては、性別・年齢を超えたターゲティングでしょう。ブランドにとって親和性の高い人の行動や思考にはどのような特徴があるのか、どのような消費傾向があるのかを把握し、いくつかのセグメントに類型化します。そして、それぞれの有力セグメントにマッチしたメッセ―ジを的確に届けます。その精度を高めることが、これまでにも増して重要な課題だと思います。
―――そうした課題を解決するには、どのような施策に取り組む必要があるのでしょうか。
田部氏: いま多くの企業がDXに取り組んでいますが、広告・マーケティングのDX推進に必要なのは、ネット広告だけでなくテレビCMも含めて「効果をきちんと可視化する」ことです。効果が見えているという前提で、日次・週次で検証を繰り返し、必要に応じて素早く柔軟に戦略や施策を変える ―― つまり、ネット広告のようにリアルタイムで効果を検証し、改善までのサイクルを素早く回して運用していく「運用型テレビCM」が求められており、まずはそうした体制の整備に取り組むことが大切だと考えています。
亀井氏:広告会社各社は数年来、テレビとネットのベストミックスのために、データ基盤の構築やプランニングメソッドの開発に、必死に取り組んできました。特にテレビでは、有力なセグメントの視聴傾向を把握し、的確にプランニングし、結果に基づく改善策を講じる力が求められます。テレビとネットでは広告の目的と仕組みが違うので、ネットと同じ運用は当てはまりません。広告会社にとって必要な施策は、テレビ広告の仕組みの中で、ネット運用の発想でPDCAを行う方法を模索し、実現することでしょう。
ラクスルの自社運用実績とノウハウから生まれた
運用型テレビCMサービス「ノバセル」
ーーーテレビCMに課題を抱える企業向けのソリューションとして、ラクスルは「ノバセル」を提供しています。ノバセルは、もともとどのような背景から生まれたのでしょうか。ノバセルの特長・強みについても紹介してください。
田部氏:ラクスルは、印刷の新しい発注の仕組み作りを目的に2009年に創業したベンチャー企業です。自社サービスのマーケティング活動としてテレビCMを開始したのは2014年からで、それ以降、独自の手法でテレビCMの効果を可視化してきました。顧客流入数や会員登録数など購入までをエリア別で分析、1円単位で投下に対しての効果を測り、さらにチャネルデータと掛け合わせて日時単位で分析するなど、効果検証を緻密に繰り返し実施しています。
データを可視化しPDCAを高速で回していくことで、最適なクリエーティブの制作や放映パターンの調整を行うことができた結果、広告効果を最大化させることができ、5年で売上高を約24倍に成長させ、企業の急成長にも大きく寄与しています。このようにテレビCMは、正しく運用すれば新規顧客獲得や認知度向上といった大きな効果が得られます。
そうした自社運用における経験とノウハウをもとに生まれたのが「ノバセル」です。2018年からサービスをはじめ、2020年7月期では28億円の売り上げを記録しました。当社全体の売り上げから見ても、15%を占めるまでに達しており急成長を遂げているサービスです。最大の特長はラクスルが独自に生み出した手法をシステム化することにより、テレビCMの広告効果を瞬時に可視化できるところです。効果をリアルタイムに可視化する独自のクラウド型効果測定ツール「ノバセルアナリティクス」を使えば、放映後の効果をクリエーティブや番組ごとに測定でき、ネット広告と同様に効果検証を行い運用していくことが可能になります。
従来の広告効果を調査してテレビCMの戦略を策定するところから、クリエーティブの制作、番組を指定したテレビCMの放映、さらに可視化した効果の分析から改善を回していくまで、テレビCM全体を一貫してサポートする「運用型テレビCMサービス」として提供しているという特長もあります。自社の成長に寄与し、実践から生まれたサービスであるところが、競合サービスにはない大きな強みです。
ーーーADKMSは、ノバセルをどのように評価していますか。
亀井氏:まず、サービスが上質かつシンプルで導入しやすいのが強みです。ADKは長年テレビ広告の効果分析と運用サービスを行ってきました。ターゲット層への到達目標の達成度や、売り上げ、ブランド指標の伸長度を高めるのが目的です。統計を用いた複雑なものが多く、時間や労力もかかりがちでした。ノバセルの運用型テレビCMサービスは、CPA (Cost per Acquisition:顧客獲得単価)を結果指標として、個々のテレビCMの露出にどのくらい効果があったのかを測定し、改善につなげます。クラウド型の測定ツールを活用した、非常に合理的でスマートなものです。また出稿を通じてクリエーティブ効果を検証しながら、最も強いCMに絞り込んでいく運用は、当社は経験が多くありません。ネットの発想を取り入れた新鮮なものだと思いました。これらの特徴が重なって、スタートアップ企業に強い、というノバセル像を作り上げたのだと思います。自らが成功体験を持ち、ベンチャーマインドを持っているのも要因の一つでしょう。スタートアップ企業に取り組みたい当社にとって、大きな魅力です。
テレビCMのDXを実現する
「運用型成果連動CM」
ーーーラクスルとADKMSはこのほど、業務提携に向けた基本合意を発表しました。提携に至った経緯・目的について教えてください。
田部氏:ノバセルでは、各企業のDXが今後さらに加速していく中で、経営の中でも重要な位置を占めるマーケティングのDX(可視化と高速PDCA)の重要性はさらに高くなっていくと考えています。その中で最も困難なチャレンジとなるのはテレビCMのDXであり、その解決に向けたアプローチが「運用型テレビCM」という市場の創造だと考えています。しかし、市場を創出するには、当社の力だけでは及びません。そこで大手広告会社であるADKグループにおいてデータドリブンマーケティング分野に強みのあるADKMSと業務提携することに合意しました。
ノバセルの顧客は従来、インターネット企業やスタートアップ企業が中心でしたが、市場創出を目指すにはどうしてもテレビCM出稿の経験が豊富な大企業の広告主にも利用していただけるサービスとして認知されなければなりません。その点、大企業の顧客を数多く抱え、広告業界に影響力をもつADKMSと手を結ぶことで、ノバセルに対する安心感を持っていただけるようになります。さらにノバセルはクリエーティブの制作や効果測定・分析を得意としているものの、テレビCMを放映するメディアの選定、テレビCM戦略の企画・策定などは経験豊富なADKMSが秀でています。そうした部分をADKMSが補完できるところも、業務提携の大きな意義です。
亀井氏:テレビCMの広告効果を可視化し、それを丁寧に分析・改善しながら効果的に運用していくのは、ADKMSの考え方と共通しています。このように同じ方向を向いているというところが、ラクスルと基本合意に至った根幹にあります。
ADKグループは創業から60年余りの歴史があり、まさにテレビ業界とともに成長を続けてきた広告会社です。長い歴史で培ってきたノウハウも有しています。そんな当社の強みとラクスルの強みを持ち寄り、広告主に寄り添いながらテレビCMの広告効果最大化に貢献することが業務提携の目的であり、大きな価値だと考えています。
ーーー両社の業務提携により、運用型テレビCMサービスはどのように発展・進化していくのでしょうか。
田部氏:テレビCMを出稿する企業にとって気になるのは、やはり売り上げなどビジネスに直結する「成果」が得られるかという点です。テレビCMを出稿しても成果がなければ費用は払いたくないでしょうし、大きな成果が得られればもっと費用を払ってもよいと考える企業もあるでしょう。そこで、運用型テレビCMを、成果に応じて費用を決める「成果連動型サービス」へ発展させていきます。
また、テレビCMのDXを推進する上で重要なのは顧客企業側のデータの基盤です。デジタル化が急速に進む一方、社内外のデータが散乱し、効果が可視化できていないという企業様が非常に多いのが現状です。データの基盤を整え、最適なデータ同士を紐づけるなど、顧客のDXのサポートにも取り組んでいきたいと考えています。例えば、効果を可視化・分析するという技術は、小売店における商品販売などの用途にも応用できます。こうしたアプローチの先にあるものとして、Factを可視化する強固なデータ基盤と、意思決定を最速で実現するシステムを提供することで、企業自身の変革をより強力に支援できると考えています。
今後も広告業界全体をテクノロジーの力でエンパワーメントすることで、テレビCMのDXを推進していきます。
亀井氏:ADKグループではこれまでも、「オンオフ統合メディアプランニング」あるいは「マルチスクリーンプランニング」として、テレビやネットへの広告投資の最適化を目指すサービスを展開してきました。ここにノバセルの技術を融合し、明確さとスピードをアップさせていきます。そして、テレビやネットだけでなく多種多様なメディアのデータを一元的に管理しながら運用できる、マルチ運用サービスの確立を目指します。
テレビCM市場の裾野を広げる
「運用型成果連動CM」
成果に応じて費用が決まる運用型のテレビCMサービス。初めてテレビCMを実施するサービスを対象としたもので、効果にコミットメントすることで不安をなくし、テレビCMにチャレンジしやすくしている。
具体的には、戦略策定を経て、小規模放映のトライアルを行って成果目標を定め、その目標に向かって本番運用を実施。そして効果検証の結果、成果に基づいて費用を支払う仕組みとなっている。また、トライアル時点において一定の成果が出ない場合は、ノバセルが再制作の費用を負担することで、より取り組みやすい環境を整えている。